Scene.33 書棚から本が呼ぶ声がする!
高円寺文庫センター物語㉝
「ありがとうございました!」
「店長、どなたなんですか?」
「クロちゃんは、会ったことなかった?!
湯西川温泉にある、老舗旅館のオーナーご夫妻なんだよ。たいしたもんだぜ、クロ!
ホテル関係の洋雑誌を定期購読されて、勉強されているんだもん。その、お取り置きがあるから取りにいらっしゃるんだよ」
「それで、お代の方は?」
「振り込みだっちゅうの、やけに細かいな。
最初はさ、高円寺にお住まいなのか、と思った瞬間に! は、荘園領主。って、発想しちゃったよ」
「それこそ、本の読み過ぎじゃないですか?」
「だからね、前にも言ったたでしょ。
本なんて、読んでるとロックな考え持たないって! ただなぁ、無理に背伸びして難解な本を読めだよな、10・20代はさ。
てか、クロ! 若いうちは、背伸びするのは大事だぜ」
「ありがとうございます。
なんか、学校で勉強するしたよりバイトで教えられることの方が多いな」
「だろ。
学校はあり体の知識は教えてくれるけどさ、バイトで世間と向き合えば人生を生きる知恵と勇気が得られるんじゃないの?!」
Scene.33 書棚から本が呼ぶ声がする!
「イェイ♪
文庫センターの大忘年会に、ようこそ!」
年末は、文庫センターのスタッフだけでの忘年会はきっちりやる。この一年を支えてくれたバイトくんたちに、対外的な演出なしに慰労の場としていた。
大忘年会は、ちっぽけな街角本屋を応援してくれる出版社やライターの方々に、感謝と更なる支援を呼びかけるイベントでもあったかな。
12月21日の高円寺「ドックベリー」ありがたいよ。去年の忘年会より参加者が増えて44人!
「石川さん、店長のはっちゃけぶりはヤバくないですか」
「そっすかぁ、菅ちゃんに岡部ちゃん。
店長とスタッフのみんな。ニューバーグのママさんの件があったからね。ここは、そっとボクらが受け止めてあげないと」
「でも、普段にも増した酒の飲み方していますよ。店長」
「森ちゃん。
店長は、えらい特異体質の汗っかきだからさ。気にしなくていいっすよ、喋りながら飛び跳ねているからアルコールは抜けるっす!」
「みなさ~ん!
宴も半ばではありますが、来年のイベントの案内をさせてくださいね。海拓舎さんのご縁で、ホーキング青山さんのトークショーが新年早々にありますよ~イェイ♪
あとね! 文庫センターのホームページで『営業さん、いらっしゃい』って、版元さんを紹介するコーナーの件だけど、知り合って間もない方へは取材させてくださいね!
しばらく店を見てない方に言っておきますよ! いまね。お客さんの投票で『お客さんが選んだ、今年の一冊』って、フェアをレジ横でやってるんすよ!
目立ってるし、面白い企画なんで見に来てよね! はあ、はあ、はあ・・・・」
「店長! 息、切れてんすかぁ?! ロックっぽくないじゃん(笑)」
「石川ちゃん。酸素、酸素! 満月が ぱっかぁ~んと 浮かぶ大晦日」
「なんすか、それ?」
「辞世の句だよ、西東三鬼っぽくない?!
「誰っすか、それ!
辞世、早いっす。自制してくださいよ(笑)」
不思議な縁がこの世にはある・・・・
個人的な繋がりなどでは、まったく遠い存在なのに本屋であるが故に繋がってしまった。ただ、既にこの世にはいない・・・・